事業承継のご相談をお受けしていると、後継者が決まっているのに話が前に進まない、という場面によく出会います。原因をたどると、その多くが「株式が散らばっている」ことに行き着きます。
今回は、承継の場面で必ず論点になる「株式の買取り」について、なぜ株が分散するのか、放置すると何が起きるのか、どう集めるのかを整理します。
なぜ株式は散らばるのか
理由その1:かつては発起人が7名以上必要だった
いま株式会社は1人でも設立できますが、これは比較的新しい制度です。かつての商法では、株式会社の設立に発起人が7名以上必要とされていました。この要件が緩和されて発起人1名でよくなったのは平成2年(1990年)の商法改正で、最低資本金制度が撤廃されたのは平成18年(2006年)施行の会社法からです。
つまり、1990年より前に設立された会社は、制度上どうしても7人以上の名前を並べる必要があったわけです。実際には創業者ひとりが出資し、頭数を揃えるために親族・友人・従業員・取引先の名前を借りたケースが大半でした。これがいわゆる「名義株」です。
創業者が健在なうちは、名義を貸してくれた人も「あれは名前だけ」と理解しているので問題は表面化しません。ところが、承継のタイミングで一斉に問題になります。
理由その2:相続のたびに分かれていく
株式は相続財産です。遺言や遺産分割の手当てがなければ、相続人の間で共有状態になり、代替わりのたびに持ち主が枝分かれしていきます。創業から50年、二度の相続を経た会社で株主が20名を超えている、という例は決して珍しくありません。
しかも、名義を貸してくれた人の相続人は「名前だけ」という経緯を知りません。ある日「うちの父が株を持っていたようだが」と連絡が来て、初めて会社側が事態を把握する、ということが起こります。
散らばったままだと何が困るのか
- 重要な決議が通らない/定款変更、事業譲渡、組織再編などは株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)が必要です。後継者の持ち株が過半数しかなければ、これらは単独で決められません
- 少数株主の権利行使を受ける/一定の要件を満たす株主は、会計帳簿の閲覧謄写請求や株主総会の招集請求などができます
- M&Aで買い手がつかない/第三者に譲渡する場合、買い手はまず「全株式を取得できるか」を見ます。少数株主が残る前提の案件は、価格が下がるか、そもそも見送られます
- 誰が株主か分からない/株主名簿が更新されておらず、名義人の生死や所在すら不明という状態も実務では頻繁に見かけます
集める手段は主に4つ
1. 相対で買い取る(もっとも基本)
後継者個人、あるいは持株会社が、株主から直接買い取る方法です。単純ですが、資金は後継者が用意する必要があります。また、価格の決め方が悩みどころです。時価より著しく低い価格で譲り受けると、差額が贈与とみなされて課税される場合があります(みなし贈与)。
2. 会社が自己株式として取得する
会社の資金で買い取る方法です。後継者の資金負担がない点は大きな利点ですが、二つ注意点があります。
- 財源規制/自己株式の取得は分配可能額の範囲内でしか行えません。利益剰余金が薄い会社では実行できないことがあります
- みなし配当課税/売る側の個人株主に、資本金等を超える部分について配当所得としての課税が生じ、税負担が重くなる場合があります
なお、相続で取得した非上場株式を相続税の申告期限から一定期間内に発行会社へ譲渡する場合には、みなし配当課税を適用せず譲渡所得として扱う特例があります。相続直後は、この特例が使えるかどうかで手取りが大きく変わります。
3. 相続人等に対する売渡請求
譲渡制限株式についてあらかじめ定款に定めておけば、相続などで株式を取得した者に対し、会社がその株式の売渡しを請求できます。株が社外に流出するのを防ぐ有効な手段です。
ただし、請求には期間の制限があり、会社が相続を知った時から一定期間内に行使する必要があります。また、この制度は誰の相続にも等しく働く点に注意が必要です。オーナー自身に相続が起きたとき、後継者が請求される側に回り、少数株主に会社を乗っ取られるという逆転現象も理論上は起こり得ます。定款に入れるかどうかは、株主構成を踏まえた判断が要ります。
4. スクイーズアウト(少数株主の締め出し)
議決権の90%以上を持つ株主が、他の株主全員に対して株式の売渡しを請求できる制度(特別支配株主の株式等売渡請求)や、株式併合を使って端数処理により少数株主を整理する方法があります。話し合いで解決できない場合の最終手段です。
いずれも手続きが厳格で、価格に不満のある株主から裁判所への価格決定の申立てを受ける可能性があります。「強制的にできるから簡単」というものではありません。
いくらで買うのか、という一番難しい話
非上場株式には市場価格がないため、評価方法によって金額が何倍も変わります。税務上は、同族株主が取得する場合は原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額など)、それ以外の少数株主が取得する場合は配当還元方式、というように「誰が買うか」で評価が変わるのが特徴です。
ここを詰めずに「安く譲ってもらった」と喜んでいると、後から課税されます。逆に、売る側の相続人にとっては手取りが変わる話なので、丁寧な説明なしに進めると感情的なこじれを招きます。
着手は早いほどよい
株式の集約は、相手のいる話です。所在調査、経緯の説明、価格の合意、資金の手当て、税務の確認と、どれも時間がかかります。1年、2年かかることも普通です。
そして何より、名義株の経緯を説明できる人が元気なうちに動くことが決定的に重要です。創業者や当時を知る役員が亡くなってしまうと、「名前だけだった」ことを裏づける材料が失われ、交渉は一気に難しくなります。
まずは、株主名簿と登記、設立時の書類を突き合わせて現状を正確に把握するところから始めてください。それだけでも、次にやるべきことがはっきりします。
おわりに
株式会社ファーストキャピタルでは、事業承継とM&Aのご相談をお受けしています。「株が誰のものか分からない」「親族に散った株をどうにかしたい」という段階からで構いません。現状の整理からお手伝いします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法務・税務上の助言ではありません。制度の詳細や適用要件は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、必ず弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。