M&Aで活用できる補助金と、採択を勝ち取るためのポイントについて

はじめに

M&Aを実行するにあたっては、専門家への報酬やデューデリジェンス(DD)費用、そして成立後のPMI(統合プロセス)に関する費用など、さまざまな場面でまとまった費用が発生します。

こうした費用の負担を軽減する手段として、近年注目されているのが国や自治体が用意している補助金制度です。

事業承継やM&Aを後押しする補助金制度は年々拡充されており、活用できる場面も多岐にわたります。

もっとも、補助金は申請すれば必ず受け取れるものではなく、審査を経て採択されなければ活用することはできません。

本記事では、M&Aの実務支援に携わる立場から、M&Aやその後のPMIで活用が期待できる代表的な補助金と、申請の採択を勝ち取るために押さえておきたいポイントについて解説します。

なお、補助金は年度ごとに公募の内容や金額、要件が見直されることが多い制度です。

本記事で紹介する内容は、直近の公募における制度概要を踏まえたものですが、実際に申請を検討される際には、必ず最新の公募要領を確認し、専門家に相談されることをおすすめします。

あくまで資金調達の選択肢の一つとして、M&Aの計画とあわせて検討していただければと思います。

M&Aで活用できる主な補助金

M&Aに関連して活用が期待できる補助金にはいくつかの種類がありますが、ここでは代表的な三つの制度を取り上げます。

①事業承継・M&A補助金

事業承継・M&A補助金は、経営資源を円滑に次の世代や買手に引き継ぐことや、成長戦略としてのM&Aを後押しすることを目的とした補助金です。

以前実施されていた事業承継・引継ぎ補助金の考え方を引き継ぐ形で整理された制度であり、複数の申請枠が設けられています。

このうち、第三者へのM&Aの場面で活用できる主な枠として、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠の三つが挙げられます。

専門家活用枠は、経営資源の譲渡または譲受を行う事業者を対象とする枠で、売手・買手のどちらも申請することができます。

M&Aを実施する際に必要となる専門家への手数料や、マッチングプラットフォームの利用料、デューデリジェンスにかかる費用などが、補助の対象経費として想定されています。

補助上限は、直近の公募では売手側・買手側のいずれも600万円から800万円程度とされており、買手側が一定規模以上の売上高に関する特例を利用する場合には、上限が2,000万円まで引き上げられるとされています。

PMI推進枠は、M&Aの成立後にPMIに取り組む買手側の事業者を対象とする枠です。

PMIを進めるための専門家からの経営支援や、ITシステムの統合、設備の拡充などにかかる費用が、補助の対象経費として想定されています。

補助上限は、専門家の活用にかかる費用で150万円程度、事業の統合に関する投資で800万円から1,000万円程度とされています。

M&Aは成立後の統合プロセスこそが成果を左右するとよくいわれますが、この枠はまさにその統合段階を資金面から後押しするものといえます。

廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aの検討・実施に伴って廃業等を行う売手側の事業者を対象とする枠です。

他の事業へ再挑戦するために現在の事業を廃業する費用や、自身のこれまでの経営経験を活かして新たな道に進むための費用などが対象として想定されており、補助上限は150万円程度とされています。

この枠は、他の枠と併用して活用することもできるとされています。

これらの枠に共通する注意点として、単に経営資源を引き継ぐだけでなく、その承継によって生産性の向上や付加価値の増加といった具体的な効果が見込めることを、申請の中で示す必要があるとされています。

また、補助金には公募の時期が定められているため、M&Aのスケジュールと公募のタイミングとをあらかじめ調整しておくことも実務上のポイントになります。

さらに、補助金を受け取った後には、実際の取り組み状況や効果について報告する義務が課されており、計画から大きく外れた場合には、補助金の返還を求められることがある点にも注意が必要です。

②中小企業新事業進出促進補助金

中小企業新事業進出促進補助金は、既存の事業とは異なる新たな事業分野への進出を促進することを目的とした補助金です。

新たな市場や、付加価値の高い事業への進出にかかる設備投資などで活用することが想定されており、機械装置の導入やシステムの構築を中心に、建物にかかる費用や広告宣伝費など、比較的幅広い経費が対象となり得ます。

M&Aの場面では、買手が新規事業への参入手段としてM&Aを活用する際や、譲り受けた事業において新たな商品・サービスを展開する際に、この補助金の活用が期待できます。

補助の対象となる経費も比較的幅広く、機械装置やシステムの構築費用を中心としながら、建物に関する費用や広告宣伝費なども対象に含まれ得るとされています。

補助額は従業員数などの企業規模に応じて変動し、規模の大きい事業者では数千万円規模に達する場合もあるとされています。

M&Aによって新たな事業領域に進出しようとする買手にとっては、対象会社の設備投資や新商品・新サービスの展開を後押しする資金として活用できる可能性があります。

この補助金を活用するにあたっては、従業員の賃上げに関する要件が設けられている点に注意が必要です。

給与の総額を一定の水準以上に引き上げる計画を示すことが求められるため、従業員を雇用していない事業者は対象外となる点も、あわせて押さえておきたいポイントです。

③IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が業務の効率化や売上の向上を図るために、会計ソフトや顧客管理システム、ECサイトの構築といったITツールを導入する際の費用を支援する補助金です。

M&Aにおいては、譲り受けた企業でITツールの導入が十分に進んでいないケースも少なくなく、譲受後の業務効率化を図る際に活用が見込めます。

この補助金の特徴的な点は、あらかじめ国に登録されたIT導入支援事業者と一体になって、申請から導入、実績報告までのプロセスを進めることが求められることです。

申請者が単独で複雑な手続きを行う必要がない一方で、補助の対象となるITツールは、事前に登録されたものに限られるため、導入を検討しているツールが対象に含まれているかどうかを、事前に確認しておくことが欠かせません。

(下図は、ここまで紹介した補助金の主な対象者と補助上限の目安を整理したものです)

補助金申請の採択を勝ち取るためのポイント

補助金は、申請すれば自動的に受け取れるものではなく、審査を経て採択されなければ活用することはできません。

近年は事業承継・M&A関連の補助金への応募が増えていることもあり、審査の競争は決して緩やかではありません。

ここでは、採択の可能性を高めるために意識しておきたい五つのポイントを紹介します。

一つ目は、その補助金が掲げている政策の目的と、自社の取り組みとの結びつきを明確に示すことです。

補助金は、生産性の向上や地域経済の活性化、賃上げの実現といった、国や自治体が抱える政策課題を解決するための手段として用意されています。

単に予算を使い切るための計画ではなく、その取り組みによってどのような政策課題の解決につながるのかを、具体的に示すことが求められます。

二つ目は、実現可能性を伴った、無理のない計画を示すことです。

多くの補助金は、費用を立て替えたうえで、後から補助を受け取る後払いの仕組みを採用しています。

交付が決まった後に計画どおりに実行できなければ、自己資金での対応を迫られるおそれもあるため、目標や活動内容、予算、スケジュールに矛盾や無理がないかを、あらかじめ十分に検証しておく必要があります。

三つ目は、解決すべき課題、その解決策、そして期待される成果までの流れに、一貫したロジックを持たせることです。

断片的な数字や技術的な説明だけでは、事業の全体像が伝わりにくくなります。

第三者が読んでも納得できる筋道立った説明ができているかどうかを、申請書を作成する段階で確認しておくことが大切です。

四つ目は、自社の取り組みの優位性を、客観的な根拠とともに示すことです。

補助金には多くの応募が集まるため、ありきたりな内容では埋もれてしまいます。

市場における自社の位置づけや、第三者からの認証、具体的な実績といった客観的なデータを添えることで、申請者の主観だけに頼らない説得力のある説明になります。

五つ目は、専門家など第三者の視点を取り入れることです。

申請者自身は、どうしても自社の計画を高く評価しがちです。

専門家やコンサルタント、金融機関などの第三者から意見をもらい、計画の弱点やリスクを洗い出しておくことで、計画の信頼性を高めることができます。

(下図は、この五つのポイントを整理したものです)

補助金を活用するうえでの注意点

補助金の活用を検討する際には、いくつか押さえておくべき注意点があります。

まず、補助金には公募の期間が定められており、思い立ったときに通年でいつでも申請できるわけではありません。

M&Aの実行時期と公募のスケジュールが噛み合わない場合には、活用できる補助金の選択肢が限られてしまうこともあるため、M&Aの検討を始める段階から、活用できそうな補助金の公募スケジュールを把握しておくことが望ましいといえます。

次に、補助金は交付決定後の実行状況について、一定期間にわたり報告義務が課されるのが一般的です。

計画どおりに実行されなかった場合や、申請内容と実態が大きく異なると判断された場合には、受け取った補助金の返還を求められることもあります。

補助金はあくまで計画に基づいて交付されるものであるという前提を踏まえ、実行可能な計画を立てることが重要です。

最後に、補助金の制度内容や金額、要件は、年度ごとの予算や政策の方針によって見直されることが少なくありません。

ある年度で活用できた補助金が、翌年度には内容が変更されていたり、募集自体が行われなかったりすることもあります。

M&Aや補助金の活用を検討される際には、常に最新の公募要領を確認し、必要に応じて専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

専門家の力を借りることの意味

補助金の申請書は、決められた様式に必要事項を記入すれば足りるという単純なものではなく、事業計画としての説得力が問われる書類です。

特に事業承継・M&A補助金のように、M&Aの実行と密接に関わる補助金の場合、M&Aの契約内容やスキーム、対象会社の実態を正確に踏まえたうえで、補助金の審査基準に沿った形で計画を組み立てる必要があります。

補助金申請に明るい行政書士などの専門家は、申請書類の作成や公募要領の読み解きに関するノウハウを持っています。

また、M&Aの実行段階から関与している専門家であれば、対象会社の状況やM&Aの目的を踏まえたうえで、補助金の申請内容に一貫性を持たせやすいという利点もあります。

補助金の活用を検討する際には、M&Aの支援を行っている専門家に、補助金の申請支援まで含めて相談してみるのも一つの方法です。

自社だけで申請書類を作成する場合と比べて、審査で見られるポイントを踏まえた、説得力のある計画書に仕上げやすくなります。

まとめ

M&Aの実行やその後のPMIには、専門家費用やシステム投資など、まとまった費用がかかる場面が少なくありません。

事業承継・M&A補助金や中小企業新事業進出促進補助金、IT導入補助金といった制度をうまく活用することができれば、資金面の負担を軽減しながらM&Aを進めることが可能になります。

もっとも、補助金は審査を経て採択されて初めて活用できるものであり、政策目的との結びつきや計画の実現可能性、客観的な根拠に基づく説得力のある申請書を用意することが欠かせません。

制度の内容や要件は年度ごとに変わり得るものですので、M&Aを検討される際には、最新の情報を確認しながら、専門家の力も借りて、余裕を持って計画的に準備を進めていかれることをおすすめします。

補助金はあくまでM&Aを後押しする一つの手段であり、目的化しすぎないことも大切です。

コラム一覧へ